一国の主が関係したスキャンダル、そして類まれなる美貌を持つ女性の登場など、興味をそそられる要素が満載の内容でした。
世間に出たらマズイ写真を取り返そうとするが、失敗してしまったという、話の展開自体はシンプルです。
しかし、ホームズがどうやって写真を取り返すか気になりましたし、アイリーン・アドラーがどう出てくるのか、殺人事件は発生するのだろうか、など、初めからおわりまで、ドキドキしまくりでした。
ワトスンが結婚してしばらくホームズと疎遠だったというのも、びっくりでしたね。
小説で一番好きなのは、アイリーンが種明かしをしたシーンです。
ホームズ相手に先手を打つとは!
かっこよかったですね。
ホームズが「あの女性」と言うのも納得です。
一つだけ解せないのは、ワトスンがアイリーンのことを「いまは亡き」と、初めの方で紹介していること。
小説には、なぜ・いつ亡くなったのか説明されていませんし、インターネットで探しても出てきませんでした。
ここが、消化不良なんですよね~。
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事件の名前が登場すると、「どのシリーズに登場したかな?」「ひょっとして、語れざる事件?」かと、ドキドキしますよね。
ボヘミアの醜聞に登場した語れざる事件は、以下のとおりです。
アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタイン(1583~1634)は、三十年戦争で活躍した、ボヘミアの傭兵隊長。
当時の神聖ローマ帝国皇帝フェルディナント2世をサポートし、資金調達をすることで徐々に信頼を得て、皇帝の側近の娘と結婚し、皇帝軍総司令官にまで上り詰めました。
一時は絶大な権力を握ったものの、やがて諸侯の不信を買うようになり、1630年、皇帝によって役職を罷免されました。
その後皇帝の懇願によって、リュッツェンの戦いで復職しますが、戦争が終わると今度は反逆罪の疑いをかけられ、1634年、皇帝の命を受けた暗殺者に殺害されました。その場所が、ボヘミアのエーガー(ドイツ語でEger)だったのです。
ホームズがワトスンに言ったセリフ。
「筆記者のボズウェルがついていてくれなくちゃ、てんでお手あげだよ」。
引用:アーサー・コナン・ドイル. シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫) (Kindle Locations 160-161).
この「ボズウェル」は、ジェイムズ・ボズウェル(1740~1795)という、実在した人物のことです。
ボズウェルは、スコットランド出身の弁護士・作家で、伝記『サミュエル・ジョンソン伝』で良く知られています。
ボズウェルは、著名な文学者サミュエル・ジョンソン(1709~1784)を師と仰ぎ、常に行動を共にしていました。
ジョンソンの死後に発表された伝記が、『サミュエル・ジョンソン伝』です。
この伝記が多くの人々の心を掴むのは、ボズウェルの文章力もそうですが、身近にいなければわからない、ジョンソンの人となりが生き生きと描かれている点です。
おそらくホームズとワトソンのように…って、ホームズがワトスンになぜそう言ったのか、もうおわかりですね(笑)。
一説によれば、ドイルはジョンソンとボズウェルの関係をヒントに、ホームズとワトスンの関係を描いたと言われています。
ホームズの変装レベルの高さを表現するために、ワトスンは「ジョン・ヘア」という俳優の名前を引用しました。
ジョン・ヘア(1844~1921)は、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した、イギリスの俳優です。
1865年9月にロンドンでデビューを果たしたヘアは、その2ヶ月後にT.W.ロバートソンのコメディーソサエティに出演し、その時のパフォーマンスで一斉に注目を浴びるようになりました。そのヘアの演技について、 タイムズは「ちょい役にもかかわらず、役を徹底的に研究し、ステージ上で老人のキャラクターを見事に演じた」という評を、紙面に掲載したということです。
役作りに熱心で、才能豊かな俳優だったようですね。
小説内に登場した、実在する通りの名前や建物についてご紹介します。
アドラー邸のある地区として名前の挙がったセイント・ジョンズ・ウッドは、リージェンツパークの北西に広がる地区です。
あのアドラーが住居を構えている地区ですから、高級なのだろうと容易に想像できますが、実際のセイント・ジョンズ・ウッドも高級住宅街として知られています。
最寄り駅はセント・ジョンズ・ウッド駅で、ビートルズのレコーディングスタジオとして有名な「アビー・ロード・スタジオ」と、ジャケットで有名になった、横断歩道が近くにあります。
国内でも有数のクリケット場として知られている「ローズ・クリケット・グラウンド」も、セイント・ジョンズ・ウッドの代表的な建物で、試合が行なわれるシーズンになると、多くの人たちで賑わいます。
ちなみに、アドラー邸のあるサーペンタイン・アベニューは、架空のストリート名です。
ノートンが立ち寄ろうとした「グロス・アンド・ハンキー(Gross & Hankey's)」というお店のあるリージェント・ストリートは、ロンドンの中心部を走る大通りです。
説明しなくてもわかるほど、ショッピングストリートとしてもよく知られていますよね。
小説に出てきたお店は、架空のようですが、約2キロにわたって続く大通りには、さまざまなお店が軒を連ねています。
エッジウエア・ロードは、オックスフォード・ストリートの北東を走る大通りで、リージェント・ストリートと同じように、ショッピングストリートとして良く知られています。
通り沿いにある聖モニカ教会で、アドラーとノートンは挙式したと小説にありますが、聖モニカ教会も残念ながら実在しません。
ギニー金貨は、1663年から1813年ころまで造られていた貨幣です。ホームズの時代はすでに製造がストップしていましたが、小説に登場しているということは、製造終了後も使用されていたようですね。1ギニー(21シリング)は約1ポンド(20シリング)に相当します。
一方のソブリンですが、ギニーの後に登場した、貨幣のことです。厳密に言うと、15世紀後期に製造されたことがありますが、ホームズの時代は、ギニーの後に再び登場した貨幣と考えられます。ソブリン金貨は、1917年まで発行されていました。ちなみにアドラーが言った「半ソブリン」は、10シリングに相当します。現在で言うと、50ペンスほどですね。