「恐怖の谷」は、シャーロック・ホームズシリーズの長編小説の一つ。
この作品は、雑誌「ストランド・マガジン」で1914年9月号から1915年5月号まで掲載されました。
「緋色の研究」と同じく2部構成になっています。
1部は事件発生から解決までで、2部は事件の背景、という構成は緋色の研究と同じ。
事件や関係人物への愛着が強くなる第2部は、個人的には大好きです!
ドイルが小説を書いた時期と、事件の時代に大きなタイムラグがあるので、いつ事件が起きたかというのは複数の見方がありますが、1895年頃というのが有力です。
すごくこだわっている方ではないからかもしれませんが、小説を読んでいて事件の時代がいつだったか、というのはあまり問題にはなりませんでしたけどね。
それではまず、ネタバレ直前までのあらすじをご紹介しますね。
スポンサードリンク
【第1部】
ホームズは、「ポーロック」と名乗る人物から届いた暗号文の解読に頭を捻っていた。ポーロックはモリアーティ教授の配下で、暗号にして重要なメッセージを送ってきたと考えられたからだ。2番めに届いた手紙には、暗号の解読をやめるようにとの旨が乱れた文字で書かれていたため、ますますその可能性が高まった。
「暗号に使われた数字はある書物のページを示しているのではないか」との推測を手がかりに、ホームズとワトソンの2人は「ホイッティカー年鑑」を使って暗号文の解読に成功する。暗号は、バールストン館に住む男性に危険が迫っていることを伝えるものだった。
そこへスコットランドヤードのマクドナルド警部が現れる。バールストン館で発生した殺人事件について、ホームズに捜査依頼をしようとしていたマクドナルド警部は、ホームズが事件発生をすでに知っていたことに驚く。
マクドナルド警部は、モリアーティ教授の書斎で教授と会ったことを話す。書斎にはジャン・バティースト・グルーズの高価な絵が飾られたことを聞いたホームズは、モリアーティ教授が非合法的に副収入を得ていることを示唆する。ホームズの調査によると、モリアーティ教授の参謀長のモラン大佐は、教授から高報酬を受け取っているし、教授は複数の銀行口座を所持している。
犯罪組織の親玉であるモリアーティ教授が今回の事件に関わっているとしたら、殺害されたダグラスは何らかの理由で首領をを裏切り、見せしめのために命を落としたと考えられる。もし、バールストン館で盗まれたものがあったとしたら、利益を得るため教授自ら企てた可能性が高い。
ホームズたちは、2つの仮説のうちどちらが動機なのかを探るために、バールストン館に向かった。
バールストン館に到着したホームズは、そこで事件発生からこれまでの説明を受ける。
事件が発生したのは午後11時半。銃声を聞いて書斎に駆けつけたセシル・パーカーは、ダグラスのむごたらしい遺体を発見、警察に駆け込み事件発生を伝える。
ウィルスン巡査部長は館を訪れ、ウッド医師、執事のエイムズと共に書斎に入り、ダグラスの遺体を調べる。
ダグラスは頭を撃ち抜かれた状態で、仰向けに倒れていた。
遺体の胸元には、凶器に使ったとみられる散弾銃が置かれていたが、銃身を切り落とされており、2つの引き金は針金でくくられていた。
銃声を聞いてからパーカーが駆けつけるまでおよそ30秒。
その間に犯人は窓を開けてそこから部屋を抜け出し、堀を泳いで逃げたと考えられた。
館は堀で囲まれているため、中に入るには橋を渡る必要がある。
しかし橋は午後6時には上げられていたため、犯人はその前から館内に隠れていたのでは、というのが大方の見方だった。
遺体のそばには散弾銃の他に「V.V.」というイニシャルと、「314」という数字が書かれたカードが残されていた。
また、部屋の隅には泥靴の跡があり、ウィルスン巡査部長は「犯人はここにずっと隠れていてダグラスが来るのを待っていた」と推測した。
遺体を調べていたウッド医師は、右腕についている焼印に注目、エイムズは結婚指輪がなくなっていることに気がつく。
現場の捜査をしていくうちに、ホームズはいくつかの謎にぶち当たる。
館から逃走するには堀を泳ぐしか方法はなかったが、堀の対岸には犯人がよじ登ったような痕跡はまったく見られなかった。
また、銃声が発生してから館の住人が駆けつけるまで1分もなかったのに、犯人は結婚指輪を抜き取ったり、窓框に足跡を残すなど複数の行動をしているにもかかわらず、姿を消すことに成功している。
窓框についている足跡と、部屋に残された泥靴の足跡は違う靴でつけられた可能性がある上、部屋に残されたダンベルは1本しかなかった。
散弾銃の特徴を聞いたホームズは、それがアメリカ製のものと見抜き、アメリカ暮らしが長かったダグラスとの関係性を指摘する。
書斎を捜索していたホームズたちのもとに、犯人が逃走に使ったとみられる自転車が発見されたとの一報が入った。
ホームズたちは館に住む人物たちから、ダグラスや事件当時のことについて事情を聞く。
バーカーによると、バーカーとダグラスはカリフォルニアで知り合い、その後何年かしてダグラスは突然財産を処分、ロンドンに渡ってしまったという。
その後バーカーもロンドンに移り住み、再び交流が始まった。
ダグラスはロンドンで婦人と知り合い結婚、バールストン館に居を構えて静かに暮らしていた。
ダグラスはバーカーにもダグラス夫人にも自分の過去を一切語らない面があり、2人もダグラスには人に言えない過去があることに気がついていた。
ダグラス夫人によると、ダグラスは一度「恐怖の谷にいたことがあると」言ったが、それ以上詳しく語ることはなかったという。
マクドナルド警部やワトスンは、バーカーとダグラス夫人の言動から、2人の仲を怪しむ。
ホームズは、エイムズからバーカーが事件当時履いていたスリッパを手に入れる。
スリッパの底は血で汚れていた上、窓框についていた足跡とぴったり合致した。
緑園を散歩していたワトスンは、何か親密そうに話をしているバーカーとダグラス夫人を偶然目撃する。
ワトスンは2人としばらく会話をした後その場を立ち去り、その時のことをホームズに話す。
ホームズは、バーカーとダグラス夫人が共謀して嘘をついていることを見破っていた。
なぜ2人は嘘をついたのか。
ホームズとワトスンはいくつかの仮説を提案するが、ホームズは真相を突き止めるため、事件が発生した書斎で一晩過ごすことを決める。
【第2部】
ジョン・マクマードーは、ヴァーミッサの町に向かう途中の列車の中で、マイク・スキャンランという労働者に出会う。
ヴァーミッサは石炭や炭鉱で栄えていて、スキャンランは「大自由民団」という地元の労働組合に所属していた。
マクマードーは大自由民団のシカゴ支団に所属していたが、犯罪に手を染め、逮捕を逃れるためヴァーミッサ渓谷にやってきたのだった。
ヴァーミッサでは民団が幅を利かせており、スキャンランは「まず『支団本部(ユニオンハウス)』のマギンティー親分に会うように」と、マクマードーに忠告する。
友人に教えられた下宿へ向かう途中、マクマードーは、マギンティーが殺人を含む暴力でこの街を支配していることを知る。
事務所の臨時職員として働き始めたマクマードーは、ある日下宿の主から「娘(エティー)に言い寄るのは止めて欲しい」と言われる。
マクマード-はエティーに一目惚れをし、毎日のように求婚していた。
エティーにはテッド・ボールドウィンという婚約者がいて、彼は「スコウラーズ(大自由民団)」では重要なポジションについている人物だった。
そして、マクマードーが民団のメンバーと知った主は、彼に立ち退きを要求する。
エティーのことを諦めきれないマクマードーは、エティーに会い、本心を聞く。
エティーはボールドウィンのことを心底嫌っていて、マクマードーに想いを寄せていることを告白するが、そこへボールドウィンが部屋に入ってくる。
一触即発の雰囲気がマクマードーとボールドウィンの間に流れるが、ボールドウィンは含みを残してその場を立ち去った。
この一件を受け、マクマードーはマギンティー親分に会うことを決心、親分が経営する酒場で対面を果たす。
マクマードーが確かに組合のメンバーであること、シカゴで殺人事件を引き起こしたこと、そして偽札造りに長けていることを知ったマギンティー親分は、すぐにマクマードーに心を開き、組織のメンバーとして快く迎えた。
そこへボールドウィンが入ってきて、マクマードーとの問題を親分に訴えるが、どちらを選ぶかはエティー次第ということに落ち着く。
「スコウラーズ」は表向きは労働組合だが、やっていることは殺人集団と変わりはなかった。
自分たちの活動を邪魔する者は容赦なく抹殺され、その役目を担うのは選びぬかれた団員たちだった。
入団式の「試練」を見事にこなしたマクマードーは、すぐさま「仕事」に駆り出される。
そして、入団した当日に仕事をこなしたという偉業を成し遂げうと、マギンティー親分らから絶大の信頼を得る。
その後マクマードーはメキメキと頭角を現し、あっという間に支団長補佐の地位に上りつめる。
ある日マクマードーのところに同じ団員のモリスが訪ねてくる。
モリスは「知人がピンカートン探偵社がここで起きた事件について調査を始めていることを手紙で伝えてきた」と打ち明け、マクマード-にその手紙を見せる。
手紙には、企業と鉄道会社が結託して、スコウラーズの一掃に乗り出したこと、そしてすでにピンカートン探偵者から、バーディー・エドワーズという人物がこの地で情報収集を初めている旨が書かれていた。
マクマード-は支団へ向かい、モリスから得た情報を緊急課題として話し合うため、小委員会の設置を提案する。
エドワーズについて知っている者はいなかったが「恐らくあいつだろう」と、マクマード-は汽車で会った男の話をする。
その男はスティーヴ・ウィルスンという記者で、スコウラーズについての記事を書くためマクマード-にいろいろと質問してきたという。
ボブスンズ・パッチで下車したウィルスンをつけて行ったところ、ウィルスンは電報局に入り、暗号文みたいなものを毎日のように打っていることを知る。
マクマード-は、ウィルスンは記者ではなく探偵ではないかと疑っていたのだった。
そこでマクマード-は、ウィルスン殺害計画を提案する。
自分がスコウラーズの団員ということをウィルスンに伝え、必要書類は下宿先にあるから夜取りに来るようおびき出す。
ボールドウィンたちはウィルスンが来るより先に下宿先で待機していて、ウィルスンが来たらその場で息の根を止める、というものだ。
計画通りマクマード-はウィルスンに約束を取り付けた。
そして、マギンティー親分ら7人は、マクマード-の下宿先に待機して、ウィルスンが現れるのを待つ。
やがて、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
スポンサードリンク
ここからは小説のネタバレになります。ご注意!
実はダグラスは殺されていなくて、死亡したのはダグラスの命を狙って家に侵入したボールドウィンでした。
第2部を読めば分かりますが、ダグラスはジョン・マクマードー、そして彼こそがバーディー・エドワーズ本人だったのです。
スコウラーズの主要メンバー逮捕に貢献したダグラスは、今度は報復を恐れる立場になり、エティーと共に恐怖の谷から逃げ出しました。
その後エティーは病気で亡くなり、スコウラーズの追跡がすぐそこまで迫っていることを感じたダグラスは、事業を畳んでイギリスに渡り、そこでダグラス夫人と出会います。
その後2人はバールストン館に移り住み、密やかな生活を送っていたのですが、スコウラーズはダグラスがそこに住んでいることを突き止めてしまったのです。
町で偶然ボールドウィンの姿を見かけたダグラスは、自分の居場所がスコウラーズに特定されたことを悟ります。
そして事件発生当日、ダグラスは館に侵入したボールドウィンともみ合いになり、射殺。
駆けつけたバーカーと共にボールドウィンをダグラスに見せかけて、自分は館の隠れ場所に身を隠していたのでした。
スコウラーズは、イギリスで裏ネットワークを取り仕切るモリアーティ教授の協力を得て、ダグラスの居場所を見つけたのでした。
それを察知したホームズは、ダグラスにここを離れるようにアドバイスします。
その後ダグラスは正当防衛が認められ、ダグラス夫人とともに南アフリカへ渡りますが、「ジョンがセントヘレナ沖で突風にさらわれ海に転落した」と、ダグラス夫人の電報がバーカーのもとに届きました。
同じ頃、ホームズのもとにも「さあどうする、ホームズさん、いやはや!」という奇妙な電報がホームズのもとに届いていました。
小説ではその電報の送り主がモリアーティ教授とは断言していませんが、内容からして彼以外考えられません。