シャーロック・シーズン1第3話『大いなるゲーム』は、シャーロック・ホームズ・シリーズの『ブルーパディントン設計書(The Adventure of the Bruce-Partington Plans)』がベースになっています。
確かメモリースティックに保存されたデータは、「ブルーパディントン計画(the Bruce-Partington Project)」でしたね。
「設計書」と「計画」、"Plans"と"Project"の違いはあるものの、名前はほぼ同じですね。
それともう一つ、このドラマを語る上で欠かせない作品が、『海軍条約事件』(『海軍条約文書事件』)です。
『海軍条約事件』も国家機密が盗まれるという設定で、『大いなるゲーム』に取り入れやすい内容です。
今回の記事では、『大いなるゲーム』と、小説『ブルーパディントン設計書』・『海軍条約事件』について比較してみます。
エピソードには、ほかのシャーロック・ホームズ小説の要素も取り入れられていますが、「これは外せないな!」と思った部分についてもご紹介します。
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『大いなるゲーム』の中で、『ブルーパディントン設計書』と『海軍条約事件』がベースになっていると思われるのは、マイクロフトの依頼についてです。
MI6に勤めるアンドリュー・ウエストの遺体がバタシー駅で発見される
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マイクロフトが「ブルーパディントン計画」の調査をシャーロックに依頼する
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シャーロックはマイクロフトの依頼を断るが、ジョンは密かに調査をすすめる
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アンドリューと最後に一緒にいた人物ルーシー(アンドリューの婚約者)から事情を聞く
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ジョンがバタシー駅で調査していると、シャーロックが現れ、ある家に案内する
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家の持ち主・ジョー(ルーシーの弟)が帰宅する
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ジョーはアンドリュー殺害を認め、アンドリューの遺体を電車の屋根に載せたことを告白する
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ジョーはシャーロックとジョンにメモリースティックを返す
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シャーロックはメモリースティックを使ってモリアーティをおびき出す
『ブルースパーティントン設計書』の主な流れです。
ウーリッジの兵器工廠事務官のカドガン・ウェストの遺体が、ロンドンの地下鉄の路線で発見された
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シャーロックはマイクロフトから「カドガン・ウェストの件について話がある」との電報を受け取る
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カドガンとともに、10枚ある「ブルーパディントン設計書」のうち、7枚が発見されたが、重要な3枚だけが消えていた
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遺体現場を調べたシャーロックは、遺体は電車の屋根から振り落とされたことに気づく
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シャーロックとジョンは、最後に一緒にいたヴァイオレット・ウェストベリー(カドガンの婚約者)から事情を聞く
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マイクロフトから電報の返信があり、シャーロックは国際スパイのリストを手にする
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フーゴー・オーヴァーシュタイン宅を殺害現場と特定するシャーロック
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広告上でオーヴァシュタインと仲間のやり取りを発見したシャーロックは「ピエロ」と名乗り、仲間をおびき出す
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オーヴァーシュタイン宅にヴァレンタイン・ウォルター大佐が現れる
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オーヴァーシュタインは後日逮捕された
話の流れは似ていますよね。
被害者のバックグラウンドや遺体発見現場、被害者と最後を共にしたのは婚約者など、共通点はありますが、犯人の設定では違いが明白です。
『ブルーパディントン設計書』は、国際的スパイが事件に関与していましたが、『大いなるゲーム』では、ドラッグディーラー。
しかも、婚約者の弟でした。
犯人は婚約者の身内、というのは、『海軍条約事件』と共通しています。
海軍条約事件では、外務省に勤めるフェルペスのもとを訪れたジェームズが、偶然海軍条約文書を発見、それを盗み出しました。
ジェームズはフェルペスの婚約者であるアニーの兄。国際スパイとはまったく関係ありませんが、株に失敗し、その穴埋めをするというのが犯行の動機です(この点は、ウォルター大佐と似ていますね)。
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『ブルーパディントン設計書』は、『大いなるゲーム』のベースになっているだけあって、似たような登場人物が登場します。
両作品の登場人物について比較してみました。
登場人物 | 『大いなるゲーム』 | 『ブルーパディントン計画書』 |
---|---|---|
マイクロフト |
シャーロックの兄ちゃん |
ホームズの兄 |
犯人 |
ジョー・ハリスン |
・フーゴー・オーヴァーシュタイン(国際スパイ) |
被害者 |
アンドリュー・ウエスト |
カドガン・ウエスト |
被害者の婚約者 | ルーシー・ハリスン | ヴァイオレット・ウェストベリー |
犯人の設定は『海軍条約事件』と同じですが、それ以外は両作品の主要登場人物には共通点が多いですね。
ドラマのエピソードの中で、「あ、ここ『ブルーパディントン計画書』・『海軍条約文書』に似ているな~」と思ったシーンについてご紹介します。
『大いなるゲーム』の冒頭は、退屈すぎて壁に弾を撃ち込んだシャーロックでしたよね。
かなり衝撃的
だったのですが、『ブルーパディントン設計書』も、平和すぎてホームズが不満たらたらの描写からはじまりました。
ただ、ホームズがマイクロフトのブルーパディントン設計書の調査に興味をそそられたものの、『大いなるゲーム』のシャーロックは依頼を断り、モリアーティのゲームに参加しましたね。
この点には違いがあります。
どちらの作品でも、被害者となったウエストは、犯人宅で殺害されました。
『ブルーパディントン設計書』では室内で、『大いなるゲーム』では玄関先という違いはありましたが。
どちらも言い争いがヒートアップして、ウエストが命を落とすという結果につながりました。
ウエストの遺体が路線で発見されたからくりは、『大いなるゲーム』も『ブルーパディントン設計書』も、同じでした。
犯人が住む家は、列車が停まるすぐ近くで、遺体を列車の屋根に乗せるには抜群の立地条件。
列車がカーブに差し掛かった地点で遺体が振り落とされた、という点も共通していますね。
『海軍条約事件』の中でホームズは珍しく、フェルペスの庭に咲いている薔薇の美しさを称えたり、車窓から見えた大きな建物群を灯台と表現するなど、科学以外のことにも興味を示していました。
『大いなるゲーム』では、ゴーレムの行方を追っている時に、ふと夜空を見上げ、満天の星に「綺麗だな」と一言。
ジョンもびっくりしていましたね。
私もそうでした!
シャーロックの新たな魅力になりますね。
あ~あ、益々惚れてしまうじゃないのよ、もう!
『大いなるゲーム』の印象に残ったシーンの中で、『ブルーパディントン設計書』や『海軍条約事件』以外の小説にからめたものがいくつかあります。
ピンクのスマートフォンに時報が5回鳴った時、シャーロックは、「これから何か起きることの警告だ」と言いました。
その根拠は、「秘密結社は、危害を加える前に乾いたメロンの種やオレンジの種を送る習慣があった」からとしています。
これは、小説『五つのオレンジの種』で、KKK(クー・クラックス・クラウン)が、脅迫者宛に警告の意味を込めてオレンジの種を送ったことにちなみます。
本当に昔の秘密結社はそんなことをしていたのか、ということですが、実際にやっていたという決定的な資料はないようです。
ドイルの創作か、誰かから聞いた話を用いたのかもしれませんね。
シャーロックは地球が太陽の周りを回っていることを知らなかった、という話題が出ましたが、『緋色の研究』にも、地動説を知らないホームズに対し、ワトスンがびっくりしている記述があります。
なにより私を驚かせたのは、彼がいわゆる地動説とか、太陽系の成り立ちとかについてはまったく無知であるという、この事実をたまたま知ったときだった。およそこの十九世紀に生きる文明人で、地球が太陽のまわりをまわっているという事実を知らないものがいる、これはあまりにも常識はずれで、私にはとても信じられるものではなかった。
アーサー・コナン・ドイル. 緋色の研究 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫) (Kindle Locations 300-303). . Kindle Edition.
シャーロックがホームレスのネットワークを持っていることは、『ピンク色の研究』でも紹介されましたが、『緋色の研究』では、ホームズはストリートチルドレンで組織された「ベイカー街遊撃隊」を活用して情報を収集しました。
「ヒマ!」と、シャーロックは壁紙に弾を撃ち込みますが、『マスグレーヴ家の儀式』で似たようなシーンがあります。
『マスグレーヴ家の儀式』では、銃痕でヴィクトリア女王(Victoria Regina)を意味する"VR"と描きますが、『大いなるゲーム』ではスマイリーフェイス描いてありましたね(笑)。
ヴィクトリア女王とスマイリーフェイス。時代を感じますね。
「3ポンド太った」「2.5ポンド!」というやり取りが面白かった、シャーロックとモリーのシーン。
『ボヘミアの醜聞』で、久しぶりにワトスンと会ったホームズが幸せ太りを指摘しますが、その際「7.5ポンド太った」「7ポンド!」という会話が繰り広げられました。
幸せ太りを指摘する相手と、増えた体重は違いますが、「肥えたな」と言う内容はほぼ同じですね(笑)